2016/11/15

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 さて、占いとはまったくもってイカサマだ。
 カードは霊感によって人に答えなどを告げたりしない。

 種明かしはこうだ。
 タロットは78枚の絵柄をランダムに表示するに過ぎない。
 例えば「絶望」「苦しみ」「欺瞞」「裏切り」――などなど。

 「この相手とは心がすれ違うというようなカードが出ているな」
 然り。心がすれ違わなければ、他人との相性の占いなど誰が求めよう?
 「迷いは過去に起きたこのカードが示すものが根になっている」
 然り。過去に何もなくて何故、今この時に迷っているだろう?

 占い師の仕事は、相談者の話をひたすらよく聞くことだ。
 机の上に並べられたカード越しに対話をし、類推できる事例を並べ、もしも相談者が「それだ」と言えば、更にそこを掘り下げていくだろう。
 茫漠とした悩みをストーリーに変え、漠然とした事象を語れる言葉に直し、思考の筋道にとっかかりを与え、時には無難なアドバイスもする。一人で考えることが苦手な人間には、良いガイドとなるだろう。

 怪しげな占い部屋の中で何が起きているか、わかって貰えただろうか。
 そこには神秘ではなく、対話がある。
 ――故に対面で占うというのはとても正攻法でよい形だ。
 機会さえ許せば、俺はそのようにして静かにあなたの話に耳を傾けた筈。
 しかし申し訳ないながら、俺はそのようにしてあなたの前に顔を出すことが叶わない。
 故に今は、単純なる神秘と俺の霊感に縋ってみようじゃないか?
 対話することなしに直感と神秘によってのみ引かれたカードが語る言葉を読み上げてみようじゃないか。

 もしもカードが一つでも間違えたことを言ったなら、そこでこの手紙を読むのをやめてくれ。もし、最後まで一つも間違ったことを言わなかったならば、……それは、たまたま調子がよかったのだろう。

 長い生の合間に、少しばかりこうして言葉を交わした縁に祝福を。
 それでは始めようか。どうか耳を傾けてほしい、あなたの物語に。




____




 ――カードは言っている。

 「それは喜ばしい到来だった」

 最初に引いたカードは火の5番目のカードだ。
 5番という数字は、安定を破壊する。
 破壊というと穏やかではないな。つまりはこういうことだ。
 1番目に生まれた神秘の火は、2番目でふたつに分かれ、活動を開始する。3番目にトライアングルとなり、ワルツの調和を踊り始め、4番目で安定の四角へと落ち着く。さてならば5番目は――、一度は安定に達した平和の海へと落ちてくる神のいかづちだ。
 平和の海――生命の素を宿し、静かに揺蕩っている原始の海に生命がもたらされたかのごとき衝撃。
 5という数字が引き起こす革命。火のカードはその激変を歓迎する。
 他の属性のカードが戸惑い、困惑し、あるいは嘆きさえする中で「我が生命を得たり」と勝鬨を上げるのが火の性。
 なればそう、退屈を打破する福音のようにそれはやってきた。
 血沸き肉躍るような楽しみをつれて、それはやってきた。
 一度は完成するかに見えた器を広げるために。
 それが、この物語のはじまりだった。


 ――カードは言っている。

 「当時の彼は絶頂の中にいた」

 これは火の属性の6番目のカードだ。
 ここで火のカードは静かの海の中で起きた闘争において勝利を納め、頂点に君臨し、絶頂に達している。
 絶頂、――ということはつまり盛者必衰、だ。
 これ以上ない完璧に達した後、はたして何が起こるのか。


 ――カードは言っている。

 「当時のあなたは満足の中に浴していた」

 これは水の属性の4番目のカードだ。
 4番目の調和とは、革命を経て、6番目に達した栄光の中の平定とは違う種類の平穏だ。4番目はすべての要素を身の内に宿してはいるが、まだ何も生まれ出でていない凪いだ海だ。満たされて穏やかで豊かな海だ。
 水のカードは火のカードと違い、5番目への移行を嫌がる。
 水のカードにとって4番目の数字で居続けられることは至福だ。
 水の5番目のカードが「絶望」という名で呼ばれるだけの、水にとって理想の王国が4番目という数字の整った豊かさ中にある。
 ……火と水の違いとは何か。
 火の属性は信念を宿す。動き出す力、駆けだす力。
 片や、衝動をもって侵犯することを生き様とする火。
 片や、周りを受容して身の内に溶かし込むことを生き様とする水。
 憎しみ合ってはいけない組み合わせだ。しかし、5番目へと、更に6番目へと駆けていきたいと切望する火と、4番目に留まり続けたいと切望する水の相反する質はいかんともしがたい。
 理想を言えば、駆け抜けていく火を眺めながら自らの領分を揺蕩い続けるのが水の幸せだったのかもしれない。
 物語は5番目で始まっている。もつれが、起きる。


 ――カードは言っている。

 「そうして戦車は動き出した」

 チャリオット。
 自らの領土を守るための戦車の出陣だ。
 これは水の性質に属する、攻撃性のカードだ。
 水の戦いは反撃に始まる。あるいは先制攻撃かもしれないが、仮に先手番であっても攻撃は自らの縄張りを侵すものを先んじて制するために仕掛けられる。
 つまりは、己を譲る気がないのだ。背後に守るべき心がある限り、侵犯するものを水の攻撃性は許さない。
 絶望しないためにこその戦いだ。敗北は背後に庇うものを失うことに等しい。失うことを恐れるがゆえに背水の陣で挑まれる決死の戦いに、退却という言葉はあり得ない。
 勝利しなければ死あるのみの局面に、戦略的撤退という言葉はない。
 いったい「何」が守られようとしていたのだろうか?
 ――……おそらく、両者が感じていた危機感というのは互いに妥当なものであった。
 ぶつかりあうチャリオットの問題は、共に「自らが抱いている危機感の重要性」を殊更に強く主張し「相手が感じている危機感の本質」を蔑ろにすることにある。
 根本的な解決を目論むのならば、両者ともに、相手が抱える危機感とストレスを積極的に取り除くように行動することが望ましい。
 そうした人道的理想が実行されないのは互いの間に寛容や愛情が存在しないからではなく、勝負に負けることによって犠牲が発生することにある。
 退くことによって生まれる損失と犠牲が、相手にとってどの程度に痛手を与えるものであるのかは、共通の前提として理解されているべきものだった。そして、自分の抱く危機感と引き比べ、相手がどれほどの決死の覚悟で勝負に挑もうとしているのかも理解されるべきものだった。
 更に言えば、ぶつかりあう個々の事象はすべて「危機感」が現象として立ち現れているに過ぎず、大元の「危機感」が払拭されない限り、現象は手を変え品を変えていくらでも沸き上がる。
 個々の現象つぶし、つまりは目下の小局での駒の取り合いは全体が抱えている問題の先送りでしかない。
 チャリオットの戦争とは、そのように近視眼的で、且つひどく切実ななものだ。


 ――カードは言っている。

 「彼は忘我の陶酔へと向かっていた」

 トートのタロットは、正位置と逆位置を区別しない。
 けれども今回、奇しくも全てのカードは逆位置だった。
 つまりワンド5は逆位置、喜ばしきいかずちは波乱を生んだ。
 ワンド6も逆位置、つまり絶頂は既にして陰りが見えた。
 カップの4も逆位置、満足の海はひっくり返されていた。
 戦車もまた逆位置、守るべき戦いは暴走へひた走っていた。
 ――5枚目に引いたこのカード。「欲望」も逆位置をとった。
 欲望は人を陶酔へと導く。理性の通用しない爆発的な法悦の向こうへ。
 彼の未来、目指していた向こうを読もうとした。
 そこにはすべてを陶酔の渦に引き込むエクスタシーがあった。
 「欲望」に目的はない。欲望のための欲望。突き進むための進軍。
 戦車とはまるで逆。征服し、前進するための前進――の、迷走。
 火に向かう夏の虫のように。
 どこへ向かいたかったのか、あるいは本人すらも気付いていない。
 純然たる衝動。痛切なる太陽へと向かう走光性。
 ならばきっと、彼はあたたかな光と喜びが、欲しかった。


 ――カードは言っている。

 「それでも衝動を恐れてはならない」

 6枚目、結論は火の属性の2番目のカードだ。
 ここまであまりに火が多かった。逆巻く炎。そして攻撃性。すべて逆位置。
 当時の激しさと混乱が見て取れるようなカードたちだった。
 あなたの未来の導たらんと引いた6枚目もまた、火の逆位置だ。
 混沌と衝動はまだ続いているか。やすまらないか。
 ひっくり返った水の4番目が後を引き続けているか。
 もう充分か、沢山か。
 しかし、それでも怯んで火の本質を手放してはならない。
 逆位置に出たこの火の2を「支配」という名のカードを、飼いならさなければならない。
 衝動や恐れが主人となり、自らを支配しようとしている時、支配から逃れるためには、自らが自らの主人とならねばならない。支配されぬよう、先んじて支配するためにこそ、必要な火の力がある。
 果たして「どの火」がそうであるのか、更に言うならば「どちらの火」がそうであるのか。問い、そしてつかみ取らなければならない。
 既に充分が過ぎるほどに知り抜いた火の世界だ。あるいはこの選択を見極めるために、業火の中を渡ってきたのかもしれない。
 運動することは火の領域の性質だ。
 1番目ならば絶対的な力がそこにある。輝く火の玉のように。
 2番目はその火が、2つに分かれて踊り出す。既に分かれてしまっている。2という数字は「絶対的な一つ」ではない。分かれて動き始めたことを火という性質はとても、喜んでいる。純粋に喜んでいる。ライバルが、競う相手が、比較対象が、あるいは愛する相手が、この世にもたらされたことを。勇気に満ちて変化を恐れぬ火という属性は喜んでいる。勝気な性質が高揚し、歓迎している。
 あまねく闇を照らす如く聡明で、賢明であることを、あなたに望みたい。


 ――そんな風に、カードが言っていた。